炎症性腸疾患について
炎症性腸疾患は、腸に起こる炎症性の病気の総称で、原因のはっきりしている特異的なものと、原因がはっきりわからない非特異的なものに分けられます。一般的に炎症性腸疾患と言う場合、潰瘍性大腸炎やクローン病に代表される非特異的炎症性腸疾患を指すケースが多くなっています。
炎症性腸疾患の原因
特異的炎症性腸疾患の場合は、ほとんどがウイルス、細菌といった病原体による感染性のもので、その他には薬物の副作用によるもの、虚血性のもの、放射線によるものなどがあります。
一方、非特異的炎症性腸疾患は、分類名の由来通り、原因がわからないものですが、近年の研究で、免疫システムの異常による自己免疫が大きく関わっているのではないかということがわかってきています。
非特異的炎症性腸疾患には、近年増加傾向にある潰瘍性大腸炎、クローン病の他、単純性潰瘍やベーチェット病などがあり、いずれも国の難病に指定されています。
潰瘍性大腸炎と
クローン病について
潰瘍性大腸炎とクローン病は、よく似たところがある非特異的炎症性腸疾患です。原因がはっきりと解明されておらず、根治に導く治療法も今のところ確立されていないため、国(厚生労働省)によって難病に指定されています。
病状としては、どちらも炎症による症状が激しく現れる活動期を経て、いったん症状が落ち着く寛解期になります。しかし、それで治ったわけではなく、やがてまた症状の激しい再燃期(活動期)が始まり、それが繰り返し起こることが特徴です。
潰瘍性大腸炎とクローン病は同類ではありますが、症状の及ぶ範囲が異なっており、別の疾患です。しかし、どちらも現在では適切な治療と生活のコントロールで、以前の日常生活を取り戻すことも可能な疾患ですので、できるだけ早期のうちに受診するようにしてください。
なお、難病に指定されている疾患の治療にはその重症度によって、治療費の補助を受けることができる制度があります。詳しくはお住まいの自治体の所轄部署、または難病情報センターへお問い合わせください。
潰瘍性大腸炎について
大腸の粘膜に原因不明の炎症が起こり、徐々に大腸全体に拡がっていきます。炎症はびらんから潰瘍に至り、出血を伴うこともあります。
発症のメカニズムについてはある程度研究が進んでいますが、多くの要因が複雑に絡み合っているため、根治のための治療法が確立しておらず、厚生労働省により指定難病となっています。
症状はクローン病とよく似ていますが、クローン病が口から肛門までの消化管全体に炎症が起きる可能性があるのに対し、潰瘍性大腸炎は炎症が大腸に限られている点などが異なります。
免疫と潰瘍性大腸炎
すべての原因がはっきりしたわけではありませんが、近年の研究によって、潰瘍性大腸炎と免疫システムが大きく関わりがあることがわかってきました。
何らかの理由によって本来外敵にしか働かない免疫システムが自身の健康な細胞や組織を攻撃する自己免疫という状態になっており、その異常に大きく関わっているのが、TNF-αという腫瘍が発生した際にそれを排除する役割を果たす物質です。
潰瘍性大腸炎の症状
最初は、下痢や軽い血便が出ることがあります。また突然の激しい腹痛や、腹痛が続くといった症状もあります。潰瘍性大腸炎の多くは、直腸から発症し、だんだんと小腸方向へ炎症が拡がって行き、最終的には大腸全体に炎症が起こります。
こうして重症化すると、便器が真っ赤になるような激しい血便や粘液に血液が混じる粘血便などが起こり、出血のための貧血症状や栄養不良による体重減少が起こることもあります。
こうした症状が激しく現れている活動期(再燃期)と症状の現れない寛解期を繰り返すことがこの病気の特徴の一つとなっています。
合併症
潰瘍性大腸炎の炎症は、比較的に腸壁の浅い部分で推移することが多いのですが、稀に腸壁の深い部分まで炎症が進行する腸管合併症によって全身に影響が及ぶことがあります。腸管合併症としては、狭窄やそれによる腸閉塞、ガスが閉塞部分に詰まって腸が膨張して中毒症を起こす巨大結腸症、穿孔による大量出血などが起こることがあります。
こうした症状が起こった場合、緊急手術を検討します。また、その他の全身への合併症としては、結膜や関節、皮膚、口内などの炎症、胆道や肝臓の障害などが起こる可能性があります。さらに、炎症が持続することから、大腸がんのリスクも高まるため、定期的な大腸カメラ検査による経過観察が必須となります。
検査と診断
問診によって、いつ頃からどのような症状が起こっているかなどをお訊きし、さまざまな疾患の可能性を考慮して、血液検査によって感染症の有無を調べ、大腸カメラ検査、腹部X線検査などを行います。
特に大腸カメラ検査は、特有の炎症の状態、どこまで炎症が進んでいるかなどを医師がリアルタイムに確認できる検査です。当院では、内視鏡専門医・指導医の資格を持つ臨床経験の豊富な医師が、最新で最上位の内視鏡システムを駆使して、丁寧でありながら迅速かつ正確な検査で、患者様の負担を可能な限り軽減した検査を行っております。
治療
潰瘍性大腸炎の治療は、活動期にはつらい症状を抑え、できるだけ早く寛解期に導くための寛解導入療法を行います。寛解期に入っても完治したわけではありませんので、できる限り長い間寛解期を続けるための寛解維持療法を続けていくことが大切です。
治療としては、腸の炎症を鎮めるための薬や、自己免疫を抑制する薬などによる薬物療法を中心に、生活指導や食事指導などを併せて行います。
5-ASA製剤
5-アミノサリチル酸製剤(5-ASA製剤)は免疫を抑制することなく腸の炎症を鎮める働きのある薬で、軽症から中等症の方に処方します。
小腸・大腸ともに効果があるものや、大腸に有効なものなどがあります。活動期の他に、寛解期にも寛解維持のために服用を続けていただきます。
ステロイド(副腎皮質)ホルモン
炎症の激しい際には、ステロイド(副腎皮質ホルモン)薬を限定的に投与することで炎症を鎮めます。こちらは活動期に処方する薬です。
直腸やS状結腸に直接投入する注腸剤や坐剤などもあります。
免疫調整薬
自己免疫による正常な細胞への攻撃を抑制して、炎症を鎮める効果を期待します。また、寛解維持のために処方するケースもあります。
抗TNF-α抗体製剤
生物が作るたんぱく質を利用して作られた生物学的製剤で、自己免疫に大きく関わりのあるTNF-αという物質の働きを抑制して、炎症を抑えます。
炎症が強く他の薬による効果が得られない場合に使用する薬です。
日常生活での注意点
活動期にはつらい症状が続きますが、寛解期であれば発病前とあまり変わらない日常生活を送ることが可能です。
寛解期をできるだけ長く続けるために注意すべき点を覚えておきましょう。
運動
激しい運動は、肉体的なストレスが溜まるため病状を悪化させる可能性があるため控えてください。
ウォーキングなど適度な有酸素運動は積極的に続けてください。
食事
寛解期には、特に食事制限はありません。ただし、飲み過ぎ、食べ過ぎは悪化を招きやすいため控えてください。
バランスの良い食事を美味しく、楽しく食べることで身体にも良い影響があります。
アルコール
この疾患へのアルコールの影響はまだわかっていませんが、寛解期には適量であれば飲酒は可能とされています。
妊娠・出産
この病気に罹っていても、寛解期であれば妊娠や授乳は問題ありません。そういった臨床例が多く報告されています。ただし、寛解維持療法のため、薬の使用を続けることが必須です。妊娠が判明したからといって、自己判断で服薬を止めてしまうと、かえって悪化した形で再燃期となり、強い薬を使う必要があり、母子ともに影響がでてしまうこともあります。
妊娠の計画がある場合は、前もって医師にご相談いただければ、それに対応した形で処方を変更するなどの計画が立てられ、いざという時に慌てずに済みます。
クローン病について
潰瘍性大腸炎と同じ、非特異的炎症性腸疾患の代表的なものです。ただし、潰瘍性大腸炎と異なり、口から肛門まで、いたるところに炎症が起こる可能性があります。また潰瘍性大腸炎の炎症は連続的に起こりますが、クローン病は不規則に起こります。ただ、炎症が多発するのは、小腸の大腸寄りの箇所と大腸の奥で、それによって小腸型、小腸大腸型、大腸型と分けられています。
症状は消化管の炎症による腹痛やびらん、潰瘍などで、活動期(再燃期)と寛解期を繰り返す点も潰瘍性大腸炎と似ています。ただし、炎症は潰瘍性大腸炎より腸壁の深くに到達する傾向があります。
つらい症状のある活動期には積極的に炎症を抑える治療を行い、寛解期をできるだけ長く続けることによって、発病以前と変わらない生活を送ることができます。原因がはっきり特定されていないため根治に導く治療法がまだ確立されていないことから、厚生労働省の指定難病になっています。
免疫とクローン病
クローン病はさまざまな要因が絡み合っていて、はっきりとした原因はまだわかっていません。しかし、潰瘍性大腸炎と同様、何らかの原因で免疫システムが障害を起こし、健康な細胞や組織を自身の抗体が攻撃してしまう自己免疫が大きく関わっていることがわかってきました。
その大きな要因となっているのが、TNF-αという点も潰瘍性大腸炎と同様です。
クローン病の症状
炎症の起こった場所によって、症状が異なります。多発部位は小腸の大腸寄りの部分から大腸にかけてで、その場合、腹痛、下痢、血便といった潰瘍性大腸炎と同様の症状が現れ、活動期(再燃期)と寛解期を繰り返します。
クローン病は炎症が腸管の深い層まで及ぶことが多いため、栄養障害を起こすことが多く、それによる体重減少なども多くなっています。
腸管以外の場所にも炎症が起こることから、裂肛や肛門部の炎症による潰瘍、膿や粘液の漏出などの症状も起こります。また、活動期にはさまざまな合併症を起こすことが多くなっています。
合併症
クローン病の炎症は、腸管の深い層まで進みやすいため、狭窄やそれによる腸閉塞、穿孔とそれによる大出血、膿が溜まることによる膿腫や腸管の外に膿が漏れ出して出口を求めてトンネルを作る瘻孔などの腸管合併症を起こすことがあります。
また稀に大腸がんや肛門がんを発症することもあります。腸管以外の場所で炎症を起こすと、目のぶどう膜炎や結膜炎、皮膚炎、関節炎などの炎症、肝臓や胆道の障害、口内炎なども起こります。
検査・診断
問診によって、いつ頃からどのような症状が起こっているかなどをお訊きし、さまざまな疾患の可能性を考慮して、血液検査によって感染症の有無を調べ、大腸カメラ検査、腹部X線検査などを行います。
特に大腸カメラ検査では、クローン病特有の炎症の状態、どこで炎症が起こっているかなどを医師がリアルタイムに確認できる検査です。
当院では、内視鏡専門医・指導医の資格を持つ臨床経験の豊富な医師が、最新で最上位の内視鏡システムを駆使して、丁寧でありながら迅速かつ正確な検査で、患者様の負担を可能な限り軽減した検査を行っております。安心してご相談ください。
治療法
クローン病の治療は、活動期(再燃期)にはできる限り早くつらい症状を和らげるための寛解導入療法、寛解期にはできるだけ長い間寛解期を続けるための寛解維持療法を行います。
クローン病の場合、幅広い部位に深い炎症が起こりやすく、また、病状が食物の影響を受けやすいため栄養障害への対策が重要となり、薬物療法と共に、栄養療法を行います。しかし、合併症の状況や腸管深くまでの炎症、穿孔といった症状が強い場合は外科的療法も検討することがあります。
薬物療法
薬物療法としては、潰瘍性大腸炎とほとんど同じ治療となり、炎症を抑えるための5-ASA製剤、ステロイド薬の他に、免疫を抑制する薬、生物学的製剤のTNF-α抗体製剤などを使用します。また、症状によっては抗菌薬などを使用することもあります。
5-ASA製剤
5-アミノサリチル酸製剤(5-ASA製剤)は免疫を抑制することなく腸の炎症を鎮める働きのある薬で、軽症から中等症の方に処方します。
小腸・大腸ともに効果があるものや、大腸に有効なものなどがあります。活動期の他に、寛解期にも寛解維持のために服用を続ける薬です。
ステロイド(副腎皮質)ホルモン
炎症の激しい際には、ステロイド(副腎皮質ホルモン)薬を限定的に投与することで炎症を鎮めます。
活動期に処方する薬です。注腸剤や坐剤などもあります。
免疫調整薬
自己免疫による正常な細胞への攻撃を抑制して、炎症を鎮める効果を期待します。また、寛解維持のために処方するケースもあります。
抗TNF-α抗体製剤
生物が作るたんぱく質を利用して作られた生物学的製剤で、自己免疫に大きく関わりのあるTNF-αという物質の働きを抑制して、炎症を抑えます。
炎症が強く他の薬による効果が得られない場合に使用する薬です。
栄養療法
クローン病の場合、活動期(再燃期)には、食物からの刺激が大きく病状に影響することや、腸管深くに炎症が及ぶため、栄養障害を起こすケースが多くなります。症状によっては経腸栄養の他に静脈から点滴で栄養を補給する場合もあります。
経腸栄養療法
経腸栄養は、栄養剤を口から服用するか、または鼻からチューブを通して投与する方法などで行います。
食物を消化する過程が必要か、または消化が負担となってしまうかによって、消化態栄養剤、成分栄養剤を使い分けることになります。
完全静脈栄養法
炎症の激しい際には、ステロイド(副腎皮質ホルモン)薬を限定的に投与することで炎症を鎮めます。
活動期に処方する薬です。注腸剤や坐剤などもあります。
免疫調整薬
小腸型で、小腸内に広範囲に病変がある場合や、炎症による狭窄が重度に陥っている場合などは、高濃度の栄養輸液を静脈から点滴で投与し、栄養を補給します。
日常生活での注意点
活動期にはつらい症状が続きますが、寛解期であれば発病前とあまり変わらない日常生活を送ることが可能である点は潰瘍性大腸炎と同じです。
ただし、食物や食事の方法によって症状が悪化することがあるため、クローン病では食事制限が多くなります。寛解期をできるだけ長く続けるために注意すべき点を覚えておきましょう。
運動
激しい運動は、肉体的なストレスから悪化する要因となりますので、避けてください。
疲れない程度でウォーキングなどの適度な運動は身体のバランスを整えるため有効とされています。
食事
炎症の起こっている部分や、腸の消化吸収機能への影響などによって、摂取すると病状が悪化する食物があります。これは患者様それぞれによって異なるため、医師や栄養士などと相談しながら、病状に影響を与える食物を確認していくことが必要になります。
毎回食事の内容をスマートフォンなどで撮影し、病状への影響を記録するとよいでしょう。一般的には、脂質の多いもの、食物繊維の多いものを避けることが良いとされていますが、寛解期であれば、病状を悪化させる食物を避ける程度にして、あまり神経質にならず、美味しく楽しく食事を摂る方が良い傾向があります。
アルコール
クローン病へのアルコールの影響はまだわかっていません。しかし、寛解期には適量であれば飲酒は可能とされています。
喫煙
タバコはクローン病を悪化させる要因となることがわかっています。その他の健康被害もありますので、禁煙が原則です。
妊娠・出産
クローン病に罹っていても、寛解期であれば妊娠や授乳は問題ありません。そういった臨床例が多く報告されています。ただし、寛解維持療法のため、薬の使用を続けることが必須です。
妊娠が判明したからといって、自己判断で服薬を止めてしまうと、かえって悪化した形で再燃期となり、強い薬を使う必要がでて、母子ともに影響が起こってしまうこともあります。妊娠の計画がある場合は、前もって医師にご相談いただければ、それに対応した形で処方を変更するなどの計画が立てられ、いざという時に慌てずに済みます。