ピロリ菌抗体陽性について
ピロリ菌は自ら胃酸を中和し、通常生物が生息できない胃内に棲みつきます。これによって胃粘膜で免疫反応が起こりピロリ菌に対する抗体が生成されます。この抗体の値を血液または尿検査によって計測するのがピロリ菌抗体測定法です。しかし、抗体は過去の感染によって体内に残っていることがあり、今現在ピロリ菌に感染しているかどうかは分からないことがあります。ただし、ピロリ菌感染の疑いがあり、胃・十二指腸潰瘍や胃がんのリスクが高いことを示す指針として有用です。簡単に実施できるため、定期健診などでも採用される医療機関が多くなっています。なお、ピロリ菌抗体検査陽性を指摘されたら、まずは胃カメラ検査を受けて胃がんができていないかどうか、ピロリ菌感染による萎縮性胃炎の有無を確認する必要があります。ピロリ菌感染による萎縮性胃炎の確定診断を受けましたら、今後の胃がんのリスクを減らすためにもピロリ菌除菌の治療を受けるようにしてください。
検査方法
血清抗体法
血清ピロリ菌抗体価は、採血で簡単に実施できるピロリ菌抗体検査です。近年では2012年に始まった「胃がんリスク検診(ABC検診)」でも採用されている検査方式で、当院でもこの検査や定期健診のオプション検査などで血清ピロリ菌抗体陽性となって受診される方が多くなっています。
抗体価は以下のような規準で3つの段階で評価されます。
血清ピロリ菌抗体価(U/mL) | 判定 | 備考 |
---|---|---|
3.0未満 | 陰性 | 感染の可能性は低い(未感染) |
3.0~9.9 | 陽性(陰性高値) | ピロリ菌感染の可能性がある (要精密検査) |
10.0以上 | 陽性 | ピロリ菌感染の可能性が高い (要精密検査) |
ただし、前述の通り、抗体価検査は現在感染しているかどうかではなく、体内にピロリ菌に対する抗体があるかどうかを判定する検査です。そのため、陽性(陰性高値)と陽性の場合は胃カメラ検査を行うだけではなく、場合によっては尿素呼気試験等によるピロリ菌感染の確定診断が必要となります。
また、陰性の方であっても、完全に現在感染していないとは限らず、過去にピロリ菌感染があって、そのまま悪化させて萎縮性胃炎になりピロリ菌が生息できない状態になったなどのケースもあります。40歳を過ぎたら、胃カメラ検査の定期的な受診をお勧めしています。
「胃がんリスク検診(ABC
検診)」
A群
健康な胃粘膜です。胃の病気になる可能性は低いと考えられます。
ただし、定期的な受診は必要です。自覚症状がある場合は、胃カメラ検査の受診をお勧めします。
B群
少し弱った胃粘膜です。少数ながら胃がん発症リスクがあります。
一度、胃カメラ検査を受けましょう。また、胃潰瘍や十二指腸潰瘍などの病気に注意しましょう。
ピロリ菌に感染していますので、胃カメラ検査を受診後、除菌をお勧めします。
C群
弱った胃粘膜です。胃がん発症リスクが高いタイプです。
一度、胃カメラ検査を受けましょう。また、異常が見つからなくても、1年に1回は胃カメラ検査を受けましょう。
ピロリ菌に感染していますので、胃カメラ検査を受診後、除菌をお勧めします。
D群
かなり弱った胃粘膜です。胃がん発症リスクが極めて高いタイプです。
必ず、胃カメラ検査を受けましょう。また、異常が見つからなくても、1年に1回、胃カメラ検査を受けましょう。
ピロリ菌の感染の有無については他の方法で検査し、ピロリ菌の感染がわかった場合は除菌をお勧めします。
尿中ピロリ菌抗体測定法
尿内にピロリ菌の抗体が含まれているかどうかを調べる検査で、採尿だけで検査が行えます。
自治体によっては中学校の学校検診でピロリ菌感染検査として採用されているところもあります。
ピロリ菌抗体価検査の長所と短所
長所
- 血液検査や尿検査だけでピロリ菌感染の可能性が判定できるため、簡単に行える方法として、各種健康診断のスクリーニング検査に利用しやすい
- プロトンポンプ阻害薬(胃薬)などの影響を受けないため、他の方式のような休薬は不要
- 萎縮性胃炎等で胃内に菌体数が少ないなどのケースでも、影響を受けにくい
短所
- 除菌成功後、体内から抗体が減って陰性化するまで1年以上かかることがあり、除菌判定には使用できない
- 尿中ピロリ菌抗体測定法では、早朝尿などたんぱく濃度が高い尿で測定すると疑陽性となりやすい
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陽性であっても、尿素呼気試験等によるピロリ菌感染の確定診断が必要となる場合がある
ピロリ菌の除菌治療
ピロリ菌は胃の中の尿素を分解してアンモニアを産生し、自らの周囲を中和することで、胃に棲みつきます。アンモニアの毒性によって胃の粘膜は炎症を起こし、慢性胃炎や胃潰瘍などの原因となります。
放置すれば、胃がんの発症リスクが高い萎縮性胃炎を起こしますので、早期のうちに除菌治療を行う必要があります。ピロリ菌感染の有無は、一般的に胃カメラ検査を行い、特徴的な炎症病変を見つけた場合に組織を採取したり、尿素呼気試験などの検査を行って判定します。
陽性となった場合、2種類の抗菌薬と1種類の胃液分泌を抑制する薬をセットで1週間1日2回ずつ服用します。1回目の除菌治療に失敗したら、抗菌薬の1種類を変更して2回目の治療を行います。これで99%近くの方が除菌に成功します。これにより、慢性胃炎や胃潰瘍の発症率は大幅に下がり、また胃がんの予防ともなります。ぜひ積極的な除菌治療を受けるようにしてください。
ピロリ菌抗体陽性と言われたら
当院にご相談ください
各種健診などでご自身や身の回りの方にピロリ菌抗体陽性という結果が出た場合には、ピロリ菌に感染しているか、または過去に感染していた可能性が高いという状態になります。
胃がん発症のリスクがある状態ですので、まずは胃カメラ検査を受ける必要があります。また、ピロリ菌抗体陽性の確定診断が得られた際には、胃がん発症のリスクを減らすためにも除菌治療をお勧めいたします。ピロリ菌抗体陽性と言われたら、まずは当院にご相談ください。