慢性胃炎とは
胃炎には急性のものと慢性のものがあります。どちらも何らかの理由によって胃に炎症が起こった状態を言いますが、一般的な胃炎は慢性胃炎を指しているケースが多くなっています。正式には胃カメラ検査などで、炎症、びらん、萎縮といった胃粘膜の変化を認めることで慢性胃炎と診断される場合と、組織を採集し、病理検査で炎症があることを確定診断された場合が慢性胃炎とされます。
また、以前は胃のつらい症状があるのに、検査をしても炎症などの器質的変化が胃内に認められないケースではストレス性胃炎などと判断して慢性胃炎と分類されていました。しかし研究の結果、胃の運動機能や知覚機能が障害されて起こっていることが分かってきたため、現在では胃炎ではなく「機能性ディスペプシア」という疾患として独立して考えられるようになっています。
慢性胃炎の頻度
慢性胃炎の80%はピロリ菌感染によるもので、ピロリ菌感染者が高齢者に多く、加齢に従って発症の可能性も高くなることから、年齢と比例して増えていく傾向にあります。ピロリ菌感染以外の慢性胃炎は、服用している薬の副作用によるものなどがありますが、患者数としては20%弱と頻度が低いものになります。
慢性胃炎の原因
慢性胃炎は、胃の粘膜の炎症が長期間続いている状態です。炎症を起こす原因として一番多いのがピロリ菌感染によるものです。ピロリ菌は正式にはヘリコバクター・ピロリという細菌の一種で、経口感染で胃内に入ると、ウレアーゼという酵素を出し、胃内にある尿酸を分解して強いアルカリ性のアンモニアを生成し、自分の周りの胃酸を中和して棲みつきます。
アンモニアには毒性があるため、その刺激で胃粘膜が炎症を起こします。炎症を起こした部分では粘液による胃酸からの保護機能が弱くなり、さらに炎症が進むことになります。このピロリ菌感染が慢性胃炎を発症する原因の80%を占めるとされています。
その他の原因としては、薬物の副作用、食べ過ぎ、飲み過ぎ、喫煙、ストレスなどが挙げられるほか、自己免疫疾患に分類されるA型胃炎、クローン病による胃の炎症なども考えられます。
慢性胃炎の症状
慢性胃炎では、胃粘膜が傷つくことによって、胃痛や胃部の不快感などが起こります。また炎症によって胃の運動機能も低下し、胃もたれ、胸やけ、げっぷや呑酸(すっぱいげっぷ)、膨満感などが起こり、食欲不振に繋がります。
胃炎を長期間放置した場合、胃粘膜の修復が追い付かなくなり、胃粘膜が萎縮して胃の機能が十分に果たせなくなったり、腸上皮化生といって胃粘膜上皮が腸管粘膜上皮に置き換わるような事態が起こると、胃がんの発症リスクが何倍にも高くなってしまいます。
日常的にこれらの症状を感じる場合は、速やかに消化器内科を受診するようにしてください。
慢性胃炎の診断と治療
診断
まずは、問診で病状や経緯などを詳しくお訊きします。しかし、胃腸の疾患はどれも同じような症状が現れるため、問診のみではピロリ菌感染の胃炎、急性胃炎、胃潰瘍や十二指腸潰瘍、胃がんといった判断ができません。
そのため、胃炎が疑われる場合の検査としては、現在では胃カメラ検査が第一選択となります。胃カメラ検査によって食道から胃、十二指腸の粘膜の状態をつぶさに観察し、炎症特有の病変を発見できれば胃炎との診断が可能ですが、最終的には病変部分のサンプルを採集して病理検査を行い、ピロリ菌感染の有無やがん細胞の有無などを検査し確定診断となります。胃カメラ検査では、これらの検査・診断などの他、もし出血などがあれば止血処理を行うこともできます。
治療
慢性胃炎の場合、内視鏡検査を行い、胃に炎症があるにも関わらず、自覚症状の無いケースもあります。こうした自覚症状の有無と、ピロリ菌感染の有無によって治療方法がそれぞれ異なってきます。ピロリ菌感染がある場合、まずはピロリ菌の除菌治療を行います。除菌治療は2種類の抗生剤と1種類の胃酸分泌抑制剤がセットになった除菌キットと呼ばれる薬剤の組み合わせを1日2回、7日間にわたって服用します。
その後適切な期間をおいて除菌判定を行い、もし陽性の場合は1種類の抗生剤を変更し、2回目の除菌治療を行います。ここまでで98~99%除菌に成功します。なお、胃カメラ検査を行い、慢性胃炎、胃・十二指腸潰瘍、胃がんなどの診断があれば、ピロリ菌感染検査と除菌治療は健康保険適用となります。
症状のない慢性胃炎
ピロリ菌感染も無く、自覚症状が無い場合、特に治療の必要はありません。ただし、萎縮性胃炎への移行や、腸上皮化生が起こった場合、胃がんの発症リスクが数倍に高まりますので、胃粘膜の状態を胃カメラ検査によって定期的に経過観察していく必要があります。
症状のある慢性胃炎
まずは、食習慣の改善によって胃への負担を減らすことが大切です。暴飲暴食、肉類、脂っこいものなど消化に時間のかかるものや辛いものなど刺激物の多い食べ物などを減らし、飲酒も控えめにします。またブラックコーヒーなども胃の刺激となるため控えるのが良いでしょう。
胃に優しく消化の良い食材を多めに食べるようにしましょう。当院では、治療の一環として、これら食生活の改善のための指導も丁寧に行っていますのでご相談ください。また、薬物療法としては、プロトンポンプ阻害薬(PPI)やヒスタミンh3受容体拮抗薬(h3ブロッカー)などの胃酸分泌抑制薬、胃粘膜保護薬、胃の運動機能調整薬などを症状に合わせて組み合わせて処方する他、患者様の状態によっては漢方薬を取り入れることもあります。
経過、予後
慢性胃炎は、食生活の改善と薬物治療によって改善が可能な疾患で、経過・予後ともに悪い疾患ではありません。ただし、ピロリ菌感染が陽性の場合、いったん症状が治まったとしても、再発の確率が非常に高くなります。そのため、ピロリ菌除菌治療が大切です。
しかし、胃炎によって傷ついてしまった胃粘膜は、初期であれば回復は可能ですが、萎縮の進行や腸上皮化生が起こってしまった状況では、現在の医学では残念ながら元に戻すことが難しく、胃癌のリスクは高くなってしまいます。
除菌に成功しても胃がんを完全に防ぐことはできないため、胃がんの早期発見のためにも定期的に胃カメラ検査を受けることが非常に重要となってきます。
監修:名古屋むらもと内視鏡クリニック 栄院
院長 村元喬